N響 第1982回定期公演B 雑感

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この記事の内容は、うさぎの主観がメインとなります。そのため、一般的な解釈や作曲者の意図とは必ずしも合致しません。ご理解いただける方のみお読みください。

導入

サントリーホール
Suntory Hall
東京都 港区
Minato, Tokyo, JAPAN
27 Apr 2023
うさぎ

というわけで東京赤坂のサントリーホールまで来ました!

雪貴

今日はN響(NHK交響楽団)の演奏会に来たんだよね。

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NHK交響楽団 第1982回定期公演B
2023年04月27日(木) 19:00開演
NHKホール
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ (Paavo Järvi)
ピアノ:マリー=アンジュ・グッチ (Marie-Ange Nguci)
NHK交響楽団

シベリウス:交響曲第4番
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
チャイコフスキー:幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」


うさぎ

今日はなんといっても、つい2022年までN響の首席指揮者を務めたヤルヴィ先生の指揮です!

雪貴

パーヴォさんが首席指揮者に就任してから、今までN響の演奏を「公務員的」とか言っていたような人も評価を改めていた印象。その緩急を際立たせる指揮スタイルで、N響の精細さだけでなく豪快さも大いに引き出していたんだよね。

うさぎ

任期の最後の2年間を国際的なパンデミックの影響で実質棒に振ってしまったのは残念でしたが…… 任期が終わっても、こうして定期的に指揮に来てくれて嬉しいです。

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首席指揮者の任期終了後、
2022年9月からは名誉指揮者となりました。なので今後も頻繁にオファーを出すはず……?

雪貴

まぁ、渡航制限後の解除後にも来日してた気がするけど…… でも、ベルが見に来るのは久しぶりなんだっけ。

うさぎ

プログラムが好みと合わなかったこともあって、足を運ぶのは控えていました……

うさぎ

でも、今日は十八番とも言えるシベリウス、それもレア曲の交響曲第4番ですからね! さらにチャイコフスキーの「フランチェスカ・ダ・リミニ」もあるというので、もう楽しみです!

雪貴

以前、富山公演でパーヴォさんの「フランチェスカ・ダ・リミニ」を聴いた時は大迫力だったもんね。わかる、私も楽しみ。


サントリーホール


感想

終演後

うさぎ

というわけで感想合戦です。

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1曲目
ジャン・シベリウス:
交響曲第4番

雪貴

1曲目はシベリウスの交響曲第4番。晩年……という程ではないけれど、シベリウスが病気がちになって「死」について意識していた頃の作品で、暗めの雰囲気が特徴の曲だね。

うさぎ

その後に作曲された交響曲第5番(改訂版)がのびやかで開放的な雰囲気をまとっているのと対照的に、シベリウスの交響曲の中で最も重苦しい雰囲気の曲ですよね。演奏機会が少ないのも頷けます。

雪貴

ちなみにN響が前回この曲を演奏したのは1938年のことで、その時は日本初演だったらしい。もっとも、その頃の名前は「NHK交響楽団」ではなく前身の「新交響楽団」だったみたいだけど。ソースはN響公式Twitter。

うさぎ

ええ…… レア曲どころかウルトラスーパースーパーレアくらいの曲じゃないですか。約80年ぶりの演奏って…… ハレー彗星か何かですか?


うさぎ

さて、第1楽章はいきなり暗澹とした重苦しい雰囲気で始まり、その後も怪しい響きが続きます。怪しい響きと言ってしまうと全然伝わらないんですが……

うさぎ

わたしの頭の中では、森の中にいる時に強風が吹いているようなシーンが思い浮かびました。ごーごー、びゅーびゅーと木々が音を立てるような響き。なので、怪しいとか不快とかではなく「風の強い日に森の中にいる」というイメージが強く想起されました。あと、最初の旋律と同じ旋律で静かに締まるのが印象的。

うさぎ

そのまま続けて第2楽章はスケルツォ風。強風がおさまってお陽さまの光がキラキラと差し込んできたようなイメージがしました。どこか牧歌的な感じもしますが、最後はやや暗くなり、次の章へと続く。


うさぎ

そして間をあけて第3楽章ですが…… この楽章がかなり難解でした。何度も意識が遠くなり、あまりよくない内容の白昼夢を見ては戻ってくる、を繰り返していました。ここは悪夢の楽章ですか? まるで病に蝕まれるような……

うさぎ

突然終わり、そして始まる最終第4楽章。打って変わって明るい雰囲気です。まるで「癌で余命宣告された瞬間、世界が急に眩しく見えた」というエピソードのように……

うさぎ

その明るさが最後まで続くわけではありませんが、消え入るようには終わらず、逆にある種の力強さすら感じさせながら、それでも静かに終曲……

うさぎ

まるで死を暗示するかのように消え入るチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」の話ではありませんが、これもまた人生、という感じでしょうか。

雪貴

わかりやすく同じメロディーを持ってくる第1楽章はともかく、どの楽章ももったいぶらない唐突な終わり方をするよね。前触れもなくいきなり終わるというか。それもまた人生、とでも言うのだろうか。


うさぎ

というわけで実際に生演奏で聴いてみた結果、シベリウスの交響曲の中で最も難解な気がしました。少なくともわたしの中では。

雪貴

むしろ他がわかりやすい、と言った方がいいのかな。うわべの雰囲気で言うなら交響曲第7番あたりとどっこいどっこいだけど、あっちはまだ演奏機会多いよね。

うさぎ

また機会があれば生演奏を聴いてみたいですが、ハレー彗星の公転周期よりも長い時間を待たないといけないという…… おばあちゃんになってから聴けば「これぞ人生」ってなるのでしょうか?

雪貴

まぁ、他にも目を向ければシベリウスの交響曲全部やるぞみたいなプログラムもあるし、いつかは巡り合うって。さすがに22世紀まで待つわけにはいかないしね。


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2曲目
セルゲイ・ラフマニノフ:
パガニーニの主題による狂詩曲

雪貴

2曲目は「パガニーニの主題による狂詩曲」、ラフマニノフの作った曲だね。

うさぎ

ピアノ協奏曲みたいなやつですよね。以前どこかで聴いた記憶があります。その時は初見ということもあって全然わかりませんでしたが……

雪貴

曲の構成は協奏曲というよりは変奏曲だけどね。原曲はパガニーニの「24の奇想曲」第24番。これの主題を序奏として、24もの変奏曲が演奏される。

うさぎ

という話を聞いたので指を折って数えていたんですが、合計で28個くらいでした。前も同じような感じで指折って数えてた記憶が…… でも、こういう楽しみ方もたまにはいいですね。

雪貴

序盤で刻みすぎたんだろうね。なんなら楽譜持ってきてそれを読みながら聴けばいいじゃない。

うさぎ

総譜を開きながら聴くのはレギュレーション違反ですよ。

雪貴

何なんだ、そのレギュレーションってのは…… あと結構やってる人いるぞ。

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※言うほどいませんが、たまに見かけます。


うさぎ

第18変奏あたりでガラっと雰囲気の変わって甘い雰囲気になる部分ありますよね。あれも同じ主題のバリアシオンなんですか?

雪貴

あれね、「ラドシラミ」の主題を上下ひっくり返して「ラファ♯ソラレ」にしてるんだって。言われてみないと分からないよね。

うさぎ

確かに、言われてみれば上下反転するとそうなりますね。あそこまで雰囲気変わるのも凄いですが…… やっぱりユキさんの解説があると、異国の地で英語のパンフレット読みながら聴くよりもよっぽど解像度上がるなぁ。

雪貴

いや、私も日本語版Wikipediaの解説を今調べてそのまま読んでるだけだが?


うさぎ

あと、個人的には第13変奏あたりのピリッとした雰囲気が好きでした!

雪貴

ピリッとした雰囲気といえば、クライマックスの方もスネアドラム(小太鼓)とか増えてピリッとするよね。交響的舞曲のラストとも似通ってる感じだけど。ラフマニノフっぽさとでも言うべきか。

うさぎ

ラフマニノフっぽさといえば、重厚な和音も特徴的ですよね。わたしは手が小さいので指が届きません。その点、今日のソリストのマリー=アンジュ・グッチさんは力強く弾いてて素晴らしかったです。


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ソリストアンコール
モーリス・ラヴェル:
左手のためのピアノ協奏曲よりカデンツァ


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3曲目
ピョートル・チャイコフスキー:
幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」

うさぎ

3曲目は、チャイコフスキーの「フランチェスカ・ダ・リミニ」でした! 地獄の旅へようこそですね!

雪貴

ダンテ「神曲」の「地獄篇」第5歌をモチーフに作られた幻想曲なんだよね。色欲の罪を犯した2人が地獄の業火に焼かれる話。


うさぎ

今日は開始早々からよく響いていました。地獄の門を開けた瞬間から業火がぐるぐるでどこにも逃げ場がなく、そして主題となって容赦なく襲ってくる……

うさぎ

中盤の落ち着く場面では、普段はやや甘めな雰囲気を感じるところですが、今日は甘さ控えめな感じがしました。そのかわりにドラマティックというか……

うさぎ

静かになるところはゆっくりとおそるおそる進みつつ、盛り上がる場面では全開にして響かせる。「愛」とかそういうのではなく「逃れられない運命」のような描写を感じます。


うさぎ

そして、少しの休息の間に逃れられない運命を悟った2人を、ふたたび地獄の業火が襲い掛かります。

うさぎ

クライマックスはさらに加速しつつ音量MAXで突き進み、最後の強音の連打は1音ごとにはっきりと強くなっていることが分かるくらいの強烈なクレッシェンド…… そもそも音量MAXで入った部分なので、それ以上鳴らすと壊れますよ? とでも言いたくなるくらいの大音量。

うさぎ

そしてただクレッシェンドするだけでなく、止まりそうになるくらいまで減速して「永遠に逃れられない地獄の苦しみ」を味わわされました。めでたしめでた…… いや全然めでたくないですね。

雪貴

あのクライマックスは前に聴いたときもそうだったけど、素晴らしい迫力だよね。何度でも聴きたくなるし、なんなら無限にアンコール演奏してほしい。

うさぎ

今日はそのために来たといっても過言ではありませんが、やはり何度聴いても素晴らしい演奏ですね! 最高の地獄でした。自分が落ちない分には。

(N響の定期公演はカーテンコール撮影可)


雪貴

というわけで、今日はどうだった?

うさぎ

素晴らしかったですし、それ以上にヤルヴィ先生の演奏を聴いているという感覚が懐かしかったです! あの身のこなし! 懐かしの対向配置!

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対向配置
第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを隣接させず、指揮者の両側に並べる配置のこと。ヴァイオリンのパートがはっきり分かれている曲だとステレオっぽく聞こえて楽しい。半面、ヴァイオリンパート同士の音が遠くなるので演奏はやや難しいらしい。

雪貴

チャイコフスキーはパートごとに音を分けたがることが多いから、対向配置だとさらに楽しいよね。もっとも、普通の配置でも楽しめるようになってるけど。


雪貴

懐かしいといえば、今日のコンサートマスターはマロさんこと篠崎史紀さんだったね。久々に見た気がするよ。

うさぎ

そういえばそうでしたね。あれ、マロさんって確か2023年1月にコンマス退任してませんでしたっけ?

雪貴

第1コンサートマスターからは退任したけど、その後2023年4月からは特別コンサートマスターに就任したみたいだね。

うさぎ

なるほど、わからん。
つまり、首席指揮者の任期満了後に名誉指揮者になったヤルヴィ先生みたいなものってことですね。

雪貴

まぁ、だいたいそれであってるんじゃないかな。

雪貴

そういうのもあって、今日の一般参賀はパーヴォさんとマロさんの2人で出てきたね。ダブル一般参賀なんてそうそう見れないだろうから、いいもの見たね。

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一般参賀
終演後、オーケストラのメンバーが退場しても拍手が鳴りやまず、指揮者だけ再び舞台上に戻ってくること。最近はN響の演奏会でも結構あるらしい。

一般参賀

うさぎ

最後は2人で主役を譲り合いながら、手を取り合ってステージを降りていきましたね。ああいうのを見ると感慨深くなってしまいます。

雪貴

何年経っても見ていたいコンビではあるけれど、それはそれとして新しい世代も頑張って欲しいよね。

うさぎ

新しい世代もいいですけど、ヤルヴィ先生にも何度もN響に来てもらいたいです。

雪貴

こいつ、本当にブレないな……