この記事の内容は、うさぎの主観がメインとなります。そのため、一般的な解釈や作曲者の意図とは必ずしも合致しません。ご理解いただける方のみお読みください。
導入
というわけで上野の東京文化会館に来ました!
今日は都響(東京都交響楽団)の演奏会に来たんだよね。
さて、今日はフィンランド人指揮者のオスモ・ヴァンスカ氏による、フィンランドの作曲家シベリウスの交響曲です! まさに全身フィンランド人間向けのプログラムですね!!
全身フィンランド人間って、それはただのフィンランド人なのでは……
Joo, Joensuu(ヨエンスー)出身のわたしも立派な全身フィンランド人間ですよ。
お前の出身はJoensuuじゃなくてJoetsu(上越)だろうが。
東京文化会館
感想
終演後
というわけで感想合戦です。
1曲目
ジャン・シベリウス:
交響曲第5番
病気の影響で暗めの雰囲気となった交響曲第4番とは一転して、交響曲第5番は明るめな雰囲気から広く親しまれている作品だよね。
だと思っていたんですが、今日の演奏からは不穏な雰囲気がより鮮明に強調されているような印象を受けました。
現在一般的に演奏されている改訂版と比べて、初稿版ではその不穏な雰囲気がより多く含まれているんだよね。ヴァンスカも初稿版の録音を残しているよ。ちなみに今日演奏されたのは改訂版の方。
どうして不穏な雰囲気なのかと言われたら、まぁ歴史の教科書を開くとすぐに分かりますが…… 作曲時期は(第一次)世界大戦の真っ最中なんですよね。フィンランドもその後、独立からまもなくフィンランド内戦の時代を迎えます。
関連リンク
フィンランド内戦 - Wikipedia最終的な改訂版が出たのは、フィンランド内戦の後。とはいえ、戦闘行為が収まったからといってすぐに明るい雰囲気になるわけでもないよね。
なので、楽譜にそういう雰囲気の影が落ちているのも、まぁ自然なことなのかなと。
今日は、第1楽章の始まりで風が見えました。風になって風景を撫でていくような優しい感触。
しばらくすると、霧が晴れてまるでお城のような大きな建物が眼前に見えました。その向こうには人の営み、街並みが見えるようです。わたしにはハメ城(Hämeen linna)のシルエットが見えるようでした。
その先は、先に述べたような不穏な雰囲気に包まれます。これが20世紀初頭の世界なのでしょう。
しかし、それらのさざめきがやがて大きな塊となり、最初のクライマックスを迎えます。それは、まるで人々の声がひとつにまとまったかのようでした。
第1楽章と比べると、第2楽章はまるで「祈り」のような雰囲気で進行します。言葉として形容できる部分が少なくてごめんなさいなんですが。
そして第3楽章は、さしずめ「未来」や「将来」といったところでしょうか。明るい未来が形容されているようでした。
ですが、それでも不穏な雰囲気に曲げられそうになるんですよね。さらには、ひそひそと人々の声のようにヴァイオリンの音色が響きます。
しかし、それら人々の声が最後は結束し、不穏な雰囲気に曲げられそうになっていた未来を変えていきます。そう、未来は我々の力で明るい方向に導いていけるのです!
フィナーレは、まるで時間が止まってしまいそうなくらい、ゆっくりと溜めてから音を出していたよね。都響の観客の人たちは、ドミナントで拍手を始めるほどヤワじゃないので、安心して見ていられたよ。
「最後の最後でちゃんと終わって指揮棒が下ろされてから拍手しろよ」のアナウンスが効いてる感じもしなくもないですが…… まぁ、確かに都響の観客のみなさんはそのあたりエリートな感じですよね。特に上野はそう。
わたしの周囲の席からは「さっぱり系かな」みたいな感想が聞こえてきた気がしますが、わたし的にはさっぱりどころかこってり、それこそ「映像の世紀」以外の何物でもない感じでした。パリは燃えていますか?
うん、パリが燃えるかどうかは第二次の方の世界大戦だね。
2曲目
ジャン・シベリウス:
交響曲第6番
休憩を挟んで、2曲目はシベリウスの交響曲第6番。
夜が明けるように始まり、夜が明けるとともに花が咲いていったり人々が活発になっていくようでした。まるで劇を見ているかのような、お祭りのワンシーンみたいな情景が見えました。
個人的には、前の曲であれだけ不穏な雰囲気を醸し出すことに精を出していたヴァイオリンの皆さんが、澄み切った清流のような清らかな演奏に様変わりしていることに衝撃を受けました。指揮者の指示だとは思いますが、なんというか凄いですね……
そんな賑やかな景色が見えたのも第1楽章だけで、緩徐楽章の皮を被った第2楽章や、スケルツォ風味な第3楽章は、淡々と進んでいきました……
そして、第3楽章の雰囲気を受け継ぎながら入った第4楽章は疾走感が素晴らしかったです。第1楽章の疾走感もよかったですが、それよりも更に走っている印象でした。
個人的には、シベリウスの交響曲第6番の第4楽章の雰囲気は「体調不良で寝込んでいる時にはあまり聴きたくない大賞」のような、暗さを掘り下げるような印象があったんですが……
また変な大賞作ってんな……
今日の第4楽章で感じたのは、第3楽章のスケルツォ風をより掘り下げつつ更に加速させて発展させていくような印象でした。音が実に楽しそうだったので、暗い印象はそこまで感じませんでした。それよりも疾走感が楽しかったです。
そして、まるで第1楽章の序盤を思い起こさせつつ、静かな祈りのように曲が終わる……
3曲目
ジャン・シベリウス:
交響曲第7番
3曲目は、シベリウスの交響曲第7番。先の2曲と違って、この曲はひとつの楽章しか無いんだよね。
パーヴォ・ヤルヴィ先生がやったように「第6番と第7番は連続したひとつの交響曲としても見ることができる」という見方もわたしは好きです。
……とはいえ、今日はしっかり拍手を挟んでから演奏したから、一応は別々の曲としての演奏になるね。
ひーん……
と言いつつも純粋音楽なので、表題的に「何かが見える」ということはあまりなかったです。音楽を楽しむ、ということについては思いっきり堪能させていただきましたが。
以前、この交響曲第7番を生演奏で聴いたときは、まるで鎮魂歌のような曲だなと思いました。ちょうど(第一次)世界大戦の終わった時期でもありますし。でも、今日の演奏からはそういう雰囲気はあまり感じられませんでした。
複雑な祈りが込められているというよりは、ただ単に音の響きのためだけに存在するような音楽。そんな印象をより強く感じたよ。
交響曲第5番、第6番と立て続けに聴いてきましたが、不穏で雑味の多い第5番から後ろに行くにつれて、より音の純度が高くなっているようにすら感じます。そういう意味では、第5番から数えてひとつの世界観としても見れますよね。
特に終盤の方は、なんだか交響曲第6番の第1楽章を思い起こすような雰囲気でしたが、第5番の雰囲気もそこに内包しているかのように聞こえます。
終盤は旋律が分かりやすいこともあって、とてもノリやすいよね。生で聴いていると特によく分かって楽しい。
そして、今日の1曲目の序盤とは打って変わって、綺麗な雰囲気のまま終曲します。
……正直なところ、音楽の純度が高かったこともあって、言語化できない部分が多々ありました。なんとなく悔しいです。
音楽はいいね。音楽は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。それでいいじゃない。
さて全体として、シベリウスの楽曲だと「フィンランドの自然が見えるようだ」という感想になりがちですが、うちの記事でも何度も言っているように、フィンランド人であるヴァンスカ氏の指揮からはより内面的なものをより強く感じました。むしろ「フィンランドの自然!」みたいな主張は感じません。
そうだね、各シーンの節々からはそういうフィンランドらしさも勿論感じられるけれど、それは修飾語であって本質ではない。そういう意味では、ちゃんと独自の解釈を交えた上で「真にシベリウスらしい」楽曲を演じてくれる本場の指揮者には、尊敬の念しか無いね。
終演後も拍手は鳴りやまず、もはや都響の公演では恒例となりつつある一般参賀も開催されました!
一般参賀
終演後、オーケストラのメンバーが退場しても拍手が鳴りやまず、指揮者だけ再び舞台上に戻ってくること。都響の演奏会では割とよくある現象。
一般参賀
一般参賀
終演後
というわけで今日はどうだった?
お客さん、超満員でしたね…… あまりに多すぎて、休憩時間にお手洗いの行列が凄いことになってました。シベリウスの、しかもマイナーな方の交響曲でここまで人が集まるのも凄いことですね。
まぁ、ヴァンスカは少し前の世代にはかなり有名な人だからね。もっとも、今日は若い世代も意外と多かったように見えたけれど。
若い世代の人ですこんにちは。
あと、都響も最後のカーテンコールは撮影可になってて驚きました。もっとも、終演後にパンフレット見て初めて気付きましたが……
公式からの案内は特に見かけませんでしたが、2023年6月頃からパンフレットに「終演後のカーテンコールのみ写真撮影可」の文言が載り始めたようです。
定期公演の話なので、特別公演などはルールが異なる場合があります。また、将来的にルールが変更となる可能性もあります。必ず公式の案内やパンフレットの表記に従うようにしてください。
N響(NHK交響楽団)あたりが同様の施策をとっていたから、都響もそれに追従したのかな? 案内が不足気味なのは改善点だけど、我々ファンにとっては嬉しいことだよね。
さて、もうすぐ月が替わって11月ですね。わたしの故郷、北極圏のRovaniemi(ロヴァニエミ)では雪が降り始める頃です。つまり、Ruska(紅葉)の季節からLumi(雪)の季節へと移り変わる時期ですね。半年続くフィンランドの長い冬の始まりに思いを馳せましょう。
さっきはJoensuu(ヨエンスー)が故郷とか言ってなかったっけ……?
細かいことは気にしなくていいんですよ。
東京都交響楽団 第985回定期演奏会A
2023年10月30日(月) 19:00開演
東京文化会館 大ホール
指揮:オスモ・ヴァンスカ (Osmo Vänskä)
東京都交響楽団
シベリウス:交響曲第5番
シベリウス:交響曲第6番
シベリウス:交響曲第7番