この記事の内容は、うさぎの主観がメインとなります。そのため、一般的な解釈や作曲者の意図とは必ずしも合致しません。ご理解いただける方のみお読みください。
導入
というわけで上野の東京文化会館に来ました!
今日は都響(東京都交響楽団)の演奏会に来たんだよね。
我々にとっては年明け一発目のコンサートですね。今年もよろしくお願いします。お年玉ください。
ないよ。今年もよろしくね。
それはそれとして、今日の指揮者は尾高忠明さんですね。国内外で活躍する大御所ですが、実際に生で聴くのは初めてな気がします。
当初はマーティン・ブラビンズ氏の指揮、ソリストはズラトミール・ファン氏になる予定でしたが、感染症の流行拡大に伴う外国人の新規入国停止措置の影響で変更となりました。
尾高さんってそういえば、去年(2021年)の大河ドラマ「青天を衝け」で活躍した渋沢栄一や尾高惇忠の曾孫なんですってね。
関連リンク
尾高忠明 - Wikipedia関連リンク
青天を衝け - Wikipedia確か、大河ドラマのBGMの指揮もしてたよね。つい先月までドラマ見てたばかりだから、そういう意味では少しだけ親近感湧くよね。
栄一も惇忠あにぃも、ドラマの序盤~中盤では何度も危ない橋を渡ってましたが、あそこで歯車が少しずれていたら尾高さんもこの世には生まれていなかったということですよね……
事実に基づいた作品とはいえ、ドラマの細かい演出についてはさすがにフィクションだからね……? ほら、余計なこと言ってるうちに時間がなくなってきたから、さっさと中に入るよ。
ひーん、待ってください!
東京文化会館
感想
というわけで感想合戦です。
1曲目
フレデリック・ディーリアス:
歌劇「村のロメオとジュリエット」より間奏曲「楽園への道」
1曲目はフレデリック・ディーリアス作曲、オペラ「村のロメオとジュリエット」より間奏曲「楽園への道」だったね。
「楽園」っていうのは天国のことかと思ってたんですが、どうやら劇中に登場する酒場だか宿屋だかの名前が「楽園」ってことみたいですね。
いがみ合った農民の子同士で、一緒に幸せになることが許されないという運命の下にある主人公たち。狭い村のコミュニティそのもののような市場の喧騒から離れ、「楽園」への場面転換のための間奏曲。
しかし「楽園」で飲み明かす人たちのような生き方も合わないと思った主人公たちは、来世で幸せになることを誓って最終的には船の上で心中してしまう…… 思った以上に救いのないお話ですね。
そこはまぁ、オペラだしそういうもの。
曲調は落ち着いているんですが、はっきりとした主題以外は、どこか落ち着きどころを探るようでいて全く落ち着かない旋律が終始漂っていて、まるで主人公たち2人の状況そのもののようでした。聴いているだけで気の毒です。
曲の最後こそ綺麗に終止するわけだけれど、結局「楽園」の水も合わず…… それこそ、クライマックスで死ぬまでは落ち着けないという様子をよく感じられる曲ではあったよね。
オペラ全般がどういう曲調なのかは後でSpotifyあたりで聴いてみることにします。
2曲目
エドワード・エルガー:
チェロ協奏曲
2曲目はエルガーのチェロ協奏曲だね。どうだった?
Spotifyで何百回も聴いてるはずの曲なんですが、初めて生演奏で聴いてみると思った以上に難解でした。
こら、急に真顔になるな。
「夜」を感じる音楽だとは思うんですが、その印象が続いたのは第1楽章の途中までで、それ以降はまた別なイメージでした。
まぁ、確かに「夜」というか、太陽サンサン熱血パワーって感じの曲ではないよね。
特に第1楽章は、協奏曲というよりはまるで独奏のような感じがしました。伴奏があってほしい場所なのに楽譜に書いてない、的な。なんとなく孤独なイメージが見えました。
それが第2楽章あたりでやや調和してきて、第3楽章では完全に調和した感じでした。あ、オーケストラの相性の話じゃなくて曲そのものの印象の話なので誤解しないでください。
そして、第4楽章ではそれがまた切り離され、チェロの独奏のように…… なりつつも、今度はオーケストラ側がしっかりカバーする、というのが曲としての印象です。
なんて言うんですかね、田舎から出てきて街に溶け込めない若者が都会者になるまで、という風情でしょうか。
田舎から東京に出稼ぎに来てる身としては、他人事に思えない表現なのでちょっとやめていただきたい。
生演奏で聴くことで曲の輪郭は分かりやすくはなったんですが、なかなか全体像をつかませてくれない曲ですねこれ…… それはそれとしてソリストの横坂さんの演奏は、勇壮かつのびやかな感じでよかったです。
3曲目
ピョートル・チャイコフスキー:
交響曲第6番「悲愴」
休憩を挟んで3曲目はチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」ですね。エルガーで苦しんだ後だけに、小節レベルで理解できる分かりやすい曲でよかったです。
テーマもわりと分かりやすいしね。よく言われるのは「人生」とか「死」とかだけど。
今回もそういう話が盛り盛りだったので、今日はそういう固定観念は一旦ナシにしてまっさら気持ちで聴いてみることにしました。
また結構なことを。
第1楽章の始まりは、まるで冥界からの呼び声…… いや、冥界の景色そのものでしょうか? まさか「人生」だと思ったらもう死んだ後だなんてびっくりです。
その後、壮絶な雷が落ちた後は、まるで天国のような安らかな雰囲気です。あの世のツアーでもしているんでしょうか。さっきは冥界でしたがこっちはまるで楽園ですね。
1曲目にもそんな名前の酒場だか宿屋だかが出てきたよね。
ちょっと黙っててください。
で、まるで止まってしまうかのようなゆったりとした楽園の雰囲気の後に、いきなりまた冥界のようなテーマが降り注ぎます。痛み、苦しみ、叫び。
最初からここまでの雰囲気で思ったのは「あっ、これ病気や風邪で寝込んでいる時の雰囲気だ」と感じました。インフルエンザで寝込んだ時とか、まさにこんな感じの悪夢を見たような記憶があります。
病気といえば、確か尾高さんも前立腺がんとの闘病から帰ってきたんでしたよね。そのイメージと重なったのかもしれません。なぜだか涙が止まりませんでした。
尾高さんは2019年に前立腺がんが発覚し、5月から治療のため約2カ月間活動を停止していた。
(引用:日本経済新聞)
その後はぐっと溜めてからふたたび明るいイメージに戻ってきます。楽園のようではありますが、さっきの浮ついた感じとは違って、身体から悪いものが流れていくような音も聞こえるようです。最後は神に感謝、アーメン。
アーメン。
第2楽章はそれと比べるとのんびりゆったりした雰囲気でしたよね。こんなに優雅な5拍子はなかなかありません。活き活きとして、生きてるって感じです。
そして第3楽章も引き続き活き活きとして、スケルツォというよりは「行進曲風」の方がピッタリな感じですね。
ところで、行進曲って今でこそ運動会とかで流れるイメージですが、古くは軍楽隊によるものであり、軍隊的なものとも結びつきが強いんですよね。
とか考えていたら、中盤からは雰囲気が一変します。弓の動きは激しさを増し、金管楽器の音色は悲鳴のように突き刺さる。この雰囲気は知っています、戦争です。
大砲が轟き、シンバルの破裂音とともに衝撃が走り、大地が揺れ、見ているこっちはただただ涙が止まりません……
たくさんの血が流れました。たくさんの命が失われました。悲しみの中で、まるでレクイエムのように第4楽章が始まります。
「彼にとってこの曲は一種のレクイエムだった」とはパンフレットに書いてあったね。
それはそれ、ですってば。でも、どのあたりが鎮魂なのかと言われればこのあたりだと思います。第3楽章が終わってから、かなり間を空けてから始まりましたし。
よく都響で指揮をするエリアフ・インバルあたりは、間髪入れずにアタッカ(=楽章の切れ目なく)で、すぐ第4楽章に入ってた気がする。そういう演奏とは対照的だったね。
そして最後まで力強く、それでいて最後の最後は心臓の音が消えゆくような響きで曲が終わる……
というわけで、快速テンポでロックな感じの演奏とは全然違いますが、要所で突き刺すように襲い掛かってくる恐ろしい演奏でした。そのあたりはさすが尾高さんといったところでしょうか。
開演が19:00ちょうどでしたが、曲が終わったのは21:05頃でした。後半の開始がいつ頃だったかはよく覚えてないんですが、結構時間がかかった割には体感速度はあっという間な感じでした。
尾高さんも最後は腕時計を指さして「終演時間遅くなっちゃった、ごめんね」みたいなジェスチャーしてたよね。時間がかかった割りにあっという間だったのは同意だよ。
終演後
というわけで、今日はどうだった?
チャイコフスキーは素晴らしかったですが、わたし自身まだまだエルガーの勉強が足りないなと痛感しました。
それこそ尾高さんのエルガー交響曲のCDとかいくつかあるから、今度Spotifyで聴いてみなよ。
エルガー、「ポンプ・アンド・サーカムスタンス」の1曲目なら歌えるんですけどね。ランドオブホープアンドグローリー。
Pomp and Circumstance…… つまり行進曲「威風堂々」の第1番か。中学生はすぐかっこいい言い回ししたがるんだから。
別にいいじゃないですか。あの曲は中学校の壮行会とかでも演奏されますけど、あれを「威風堂々」って訳した人も凄いですよね。意訳にしても格好よすぎる。
他にもイギリスの作曲家だったらレイフ・ヴォーン・ウィリアムズとかベンジャミン・ブリテンとか、味わい深い作品が多いからどんどん聴いてみるといいよ。そうするとBBC Promsとかも一層楽しくなるし。
BBC Proms
・通称「プロムス」
・毎年夏に開催されるクラシック音楽のお祭り
・主な会場はロンドンの「Royal Albert Hall」
・約2ヶ月間、ほぼ毎日コンサートがある
ぜ、善処します……
COVID-19の流行に伴う演出上の注意
演出上の都合のため、登場キャラクターはマスクやフェイスガードを着用していませんが、実際にはワクチン接種やマスク着用などの感染症対策を十分に施したうえで訪問しています。
東京都交響楽団 第941回定期演奏会A
2022年01月18日(火) 19:00開演
東京文化会館 大ホール
指揮:尾高忠明
チェロ:横坂源
東京都交響楽団
ディーリアス:歌劇「村のロメオとジュリエット」より間奏曲「楽園への道」
エルガー:チェロ協奏曲
チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」