この記事の内容は、うさぎの主観がメインとなります。そのため、一般的な解釈や作曲者の意図とは必ずしも合致しません。ご理解いただける方のみお読みください。
導入
というわけで池袋の東京芸術劇場に来ました!
月曜日の上野に続いて、今日も都響(東京都交響楽団)の定期演奏会に来たんだよね。
っていうか、東京芸術劇場の前で何かやってますね?
えーと…… 「池袋西口公園完成お披露目会」だって。
池袋西口公園、左奥に見えるのが東京芸術劇場
そう言われてみれば、確かに今まではこんなSFっぽい建造物は建ってなかった気がするなぁ……
近未来っぽくていいじゃないですか、わたしはこういうの好きですよ!
おっ、何かブラスバンドっぽい曲が聞こえてくるね。
東京消防庁音楽隊が演奏中
「鬼のパンツは……」って歌いたくなるようなこの曲は、確か「ナポリの歌」でしたっけ?
「フニクリ・フニクラ」だね。ちなみに「ナポリの歌」はそのアレンジ版の題名だよ。
関連リンク
池袋西口公園野外劇場さて、ずっと見ていたら演奏会に遅れちゃうからそろそろ中に入るよ。
ひーん、事前に知ってたらもう少し早く来たのに……
東京芸術劇場
エスカレーターで5階まで昇る
5階からの展望
東京芸術劇場はあまり来ないんですけど、ギャラリーで展覧会が開かれていたりして、ゲージュツ的な雰囲気でいい感じですよね!
5階のギャラリー
コンサートホール以外の設備が充実しているよね。ホールもロビー広いしバーラウンジも充実しているし、設備面だけ見たら日本でもトップレベルの劇場だよね。アクセスも便利だし。
コンサートホール入口
コンサートホールのロビー
ロビーのバーラウンジ
感想
というわけで感想合戦です。
1曲目
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
前半はショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番でした。わたしの苦手なタイプの音楽です。
まぁ、平たく言えばがっつり20世紀音楽だよね。
特に第1楽章は「混沌」としか表現のしようがない雰囲気から始まりますからね。実際に生演奏で聴いてみると、事前にSpotifyで聴いてたのよりも何倍も混沌としています……
で、徐々にヴァイオリンの音色とオーケストラの伴奏が調和していって、第2楽章ではその調和を率いて「突進」する感じがしました。
ここでひと呼吸置いて、第3楽章は重たい雰囲気で始まったんですが、前の楽章と比べると「甘美」なイメージでしたね。
楽章単体だと全然「甘美」な雰囲気ではないんだけれど、前の楽章との対比だと必然的にそう感じるよね。
そこを「甘美」と感じさせる作り方をするあたりが、ショスタコーヴィチが「天才」と呼ばれた所以だとわたしは思いますよ。
そしてヴァイオリンソロのあと、第4楽章に突入。ここはもう「爆発」って感じのクライマックスですよね。ガンガン突き進んでどっかんどっかん盛り上げる感じで。
というわけで、全体を見ると「静→動→静→動」という、協奏曲としては珍しい構成だよね。
わたし的には「混沌」「突進」「甘美」「爆発」というイメージをそれぞれ感じたんですが…… それってショスタコーヴィチの交響曲第10番と同じイメージなんですよね。あくまで「わたし的には」なんですが。
作曲した時期は5年くらいズレているけれども、第1楽章の雰囲気が少し違うだけで確かにイメージは似ているかもね。見方としては面白いと思うよ。
ちなみにソリストアンコールはいい感じの曲でした。
ショスタコーヴィチが感じ悪いみたいに言うなよ……
2曲目
ショスタコーヴィチ:交響曲第12番「1917年」
後半のショスタコーヴィチの交響曲第12番「1917年」は、ロシア革命(十月革命)をモチーフにした標題音楽だね。
都響が月曜日に演奏した交響曲第11番「1905年」もロシア第一革命をモチーフにした楽曲ですし、今や日本は空前のロシア革命ブームですよね!
いやいや、だからそんなブームは来ていないからね。
ロシア第一革命
1905年、ロシア帝国に対して民衆が蜂起、そしてそれを弾圧する「血の日曜日事件」が発生。その後も民衆の抵抗は続くが、帝政の打倒はならず革命は失敗。
関連リンク
ロシア第一革命 - Wikipedia二月革命
1917年2月(旧暦)に勃発した革命。結果的にロシア帝国は崩壊し、革命に成功。暫定政権であるロシア臨時政府が発足。教科書に載っているロシア革命の前半部分。
十月革命
1917年10月(旧暦)に勃発した革命。レーニンの率いるポリシェヴィキがロシア臨時政府を打倒、革命に成功。教科書に載っているロシア革命の後半部分。その後も内戦が続き、ソビエト連邦が成立するのはこの5年後。
関連リンク
十月革命 - Wikipediaところで、血の日曜日事件や二月革命のときもそうだったように、十月革命もサンクトペテルブルクが主な舞台なんですよね?
うん、でも当時の都市名は「サンクトペテルブルク」じゃなくて「ペトログラード」だけどね。本記事では、当時の話題の時は基本的に「ペトログラード」と表記するよ。
ペトログラード
現在のサンクトペテルブルク。1914~1924年の間は「ペトログラード」という都市名だった。その後は「レニングラード」に改名されたが、ソ連崩壊後に現在の都市名に戻った。詳しくはWikipedia参照。
ちなみに十月革命の半年前にあたる1917年の4月、レーニンが亡命先のスイスからペトログラードに帰ってきて、駅で民衆の熱烈な歓迎を受けたんだけど……
レーニンが帰ってきた駅って、確かフィンリャンツキー駅(フィンランド駅)のことですよね。
フィンリャンツキー駅 (ロシア・サンクトペテルブルク)
そうそう。で、当時10歳だったショスタコーヴィチ少年も、その群衆の中にいたんだって。
へぇー、それは知りませんでした。レニングラード包囲戦といい、色んな歴史を生で見ている人なんだなぁ……
ショスタコーヴィチにとって、その出来事は「生涯忘れられないほど記憶に深く刻まれている」んだって。ソ連共産党との軋轢はあっても、レーニンのイメージは「労働者の偉大なる指導者」のままだったんだろうね。
その思いの上で作曲された、偉大なる指導者のための交響曲ですか…… ソ連共産党の機嫌をとるために作った曲みたいなイメージだったんですが、今のユキさんの話を聞くと見方が変わりますね。
私が言った内容は英語版の曲目解説に書いてあったんだけれど、日本語版の曲目解説で「党の意向でイヤイヤ書かされた音楽的代償」みたいに書かれていたのと真逆の方向性で、読んでいて笑っちゃったよ。
お、おう…… わたしは日本語版の曲目解説しか読んでなかったです。プログラムに英語版の曲目解説も載ってると、そういうところが便利ですよね。
ちなみに、ペトログラードに帰ってきたレーニンを民衆が歓迎した場所は、現在は「レーニン広場」と呼ばれ、レーニン像が建っている。
レーニン広場 (ロシア・サンクトペテルブルク)
で、第1楽章のタイトルは「革命のペトログラード」、おそらく二月革命をテーマにした場面です。5拍子という変態リズムで1つめのメインテーマが始まるので特徴的ですよね。ここでは「革命のテーマ」と呼ぶことにします。
変拍子のことを変態リズムと呼ぶのは止めなさい。でも、このメインテーマはすぐ後で3拍子になったり、場面によって流動的な形で出てくるから、拍子のことはそこまで気にならないよね。
1つめのメインテーマ
その「革命のテーマ」が徐々に雰囲気を高めていき、民衆はもう完全に戦闘態勢って感じですよね。
そして少し静かになったところで、2つめのメインテーマが出てくるよね。これを「民衆のテーマ」ととるべきか「労働者のテーマ」ととるべきかは任せるけど。
2つめのメインテーマ
わたしは勝手に「ポリシェヴィキのテーマ」と呼んでました…… ひとまずここでは「民衆のテーマ」と呼ぶことにしますね。
そして曲は「革命のテーマ」に戻って戦闘開始! 「民衆のテーマ」とも重なりながらクライマックスへ……!
二月革命、冬宮殿が陥落した姿が見えたところで「民衆のテーマ」が静かに響き渡る…… その後は、革命の成功を高らかに宣言するような、荘厳な雰囲気で「革命のテーマ」が現れる……
チャイコフスキーもそうですけど、こうやってテーマをくるくると変化させながら重ねるのが上手いですよね。標題音楽こそショスタコーヴィチの本領発揮だとわたしは思います。
そして「ミ・シ♭・ド」の繋ぎを経てそのまま第2楽章に入ります。第2楽章のタイトルは「ラズリーフ」、Разлив(Razliv)はロシア語で洪水とか氾濫とか入江とかそんな感じの水辺を表す言葉ですね。
英名で「Lakhtinsky Razliv」という湖のほとりで革命の計画を練るレーニン、というシーンを描いた楽章だね。
二月革命で帝政の打倒を成し遂げたにも関わらず、どこか陰鬱とした空気の流れるロシアを表すような音楽を感じました。だからこそ、レーニンはポリシェヴィキが主権を握るための革命を計画したんでしょうね。
そして第3楽章のタイトルは「アヴローラ」。直訳するとオーロラのことだけど、ここでは「巡洋艦アヴローラ」のことを指しているね。
十月革命では巡洋艦アヴローラの砲撃を合図に、冬宮殿のロシア臨時政府への攻撃が始まったんですよね!
そのあたりは諸説あるみたいだけれども、巡洋艦アヴローラは十月革命を象徴する英雄として、今でもサンクトペテルブルクに記念艦として係留されているよね。日本でいうところの戦艦三笠みたいな感じだね。
巡洋艦アヴローラ (ロシア・サンクトペテルブルク)
で、その第3楽章ではまず攻撃当日の準備を進める様子が見え、そして「民衆のテーマ」の盛り上がりを皮切りに巡洋艦アヴローラの主砲が火を噴きます! そしてそのまま民衆は冬宮殿への攻撃を開始、見事にこれを攻略!
そしてそのまま第4楽章に突入、この楽章のタイトルは「人類の夜明け」。レーニンの主導したこの革命を、当時少年だったショスタコーヴィチがどう感じたか、というのがストレートにタイトルに表れているよね。
革命の成功を祝うかのような、華々しい「祝福のテーマ」が象徴的ですよね!
しかし、そんな華々しい音楽の陰で、時々「革命のテーマ」が現れるのが不穏ですよね……
革命が成功した後なのに「革命のテーマ」が流れるってことは、つまり新たに誕生したレーニン体制を革命で打倒しようっていう勢力のことだもんね。不穏でしかない。
そして再び「祝福のテーマ」が盛り上がった後に、さらに力強い「革命のテーマ」が打ち鳴らされます。第1楽章冒頭の民衆の不満を表したかのような雰囲気がそのまま再現されるかのようで、これは三度目の革命の予感……
チャイコフスキーの交響曲第4番の第4楽章終盤で、長調で盛り上がっているところに短調の「運命主題」のファンファーレが再来する場面に通ずるものを感じるよね。
しかし、力強い「革命のテーマ」はさらに力強い「祝福のテーマ」によって打ち消されます! この楽章を支配する「祝福のテーマ」の強さを感じますね!
その後また「革命のテーマ」が出てくるけれど、これはハイライトを振り返るような感じで、また祝福ムードに打ち消されるよね。
最後は「革命のテーマ」「民衆のテーマ」「祝福のテーマ」がひとつに重なり、湧き上がる民衆の姿が見えるような堂々たる盛り上がりでフィニッシュ!
英語版の曲目解説をそのまま意訳して引用するなら、「そして交響曲は、輝かしい革命の成功を描いた理想図のなかに終わるのである」。
ちなみに、こうしてロシア革命を成し遂げたレーニンだけれども、この後は数年ほどロシア内戦が続くことになる。ソビエト連邦の成立はその後の1922年。
関連リンク
ロシア内戦 - Wikipediaロシア内戦は、レーニン率いる赤軍が白軍を打ち破ったんですよね。逃げ延びる白軍とその家族が冬の凍ったバイカル湖を渡ろうとして力尽き、氷が融けるとともに亡骸が湖の底に消えていった話は泣きました……
いわゆる「バイカル湖の悲劇」だね。25万人がバイカル湖の上で凍死し、ごく僅かしか生還できなかったから証言も殆ど残されていないという……
というわけで今日も最高でしたね、流石インバル氏です!
お客さんも大満足で、恒例の一般参賀もあったね。
一般参賀
終演後、オーケストラのメンバーが退場しても拍手が鳴りやまず、指揮者だけ再び舞台上に戻ってくること。都響の演奏会では割とよくある現象。
一般参賀に出てくるインバル氏
交響曲第12番「1917年」はこんなに素晴らしい曲なのに、「ソ連共産党の体制に沿うように作られた曲だ!」みたいなレッテルを貼られて、未だに一部から謎の低評価をされているのが納得いきません。
テーマが楽章をまたいで現れる、循環形式って言うんでしたっけ? そういうのも巧みに組み合わせた上で、クライマックスのシーンの緊迫感やフィナーレの盛り上がりまで高いレベルでまとまった素晴らしい曲なのに……
色眼鏡を使わずに見ると、確かにベルの言ったとおりだよね…… 東西対立の冷戦時代なんてのもあったわけだけど、音楽の分野にまでイデオロギーの対立を持ち込んで欲しくないなぁ。今では多少名誉回復したけど。
あと、惜しむらくは今日の席がハズレ席だったことですね…… 今日はユキさんと並んで座っていたんですが、わたしの隣のキッズが手足バタバタ鼻水ズルズルで、それはもう災難でした。
ハズレ席
当サイトでは主に落ち着きのない観客が近くにいて鑑賞に集中できない席のことを指す。回避するためにはある程度のコツも必要だが、運要素も大きい。
ちなみに、東京文化会館やNHKホールでハズレ席を引く確率は10~20%程度。(うさぎ比)
災難というか、もはや災害だよね。大人の場合は注意すればいいけど、キッズだと避けようがないし、かといって「来るな」とも言えないし…… もちろん、おとなしく聴いていられる良い子も多いけどね。
台風みたいなものですよね。頭を低くして、慈悲を与えてくれることを祈りながら過ぎ去るのを待つしかない…… ハズレ席だと集中力にノイズがかかって、曲のイメージが見えづらいんですよね。
そして私は、ここ東京芸術劇場ではハズレ席しか引いたことがないんだよね。だから充実した設備とは裏腹に、あまりいいイメージがない…… たぶん、相性が絶望的に悪いだけなんだろうけど。
わたしもここに来る時はだいたいユキさんと並んで座るので、全く同じ感覚です。S席だろうとC席だろうと、どこに座っても容赦なくハズレ席引くので、逆に避けようがないんですよね。客層なのか何なのか……
それさえなければ、本当にいいホールなんだけどな……
せめて、今日みたいな大好きなレア曲の日にはハズレ席は引きたくなかったですね。交響曲第12番「1917年」なんてただでさえ演奏機会少ないのに…… 不憫なわたしのために是非また演奏してください。
というわけで外に出てきました。まだ屋外コンサートやってますね。
アレンジの効いた「聖者が街にやってくる」が聞こえるね。16時までみたいだし、そろそろ終わりなんじゃないかな。
陸上自衛隊第1音楽隊が演奏中
で、今日はどうだった? ハズレ席の件は災難だったけどさ。
いやー、特に今日の後半は、何度も聴いている曲のはずなのに「あれ、ここは何を表しているんだろう?」となる瞬間がいくつもあったのが悔しかったです。まだまだ勉強が必要ですね、音楽についても、歴史についても。
それは勉強すればいいさ。そういえば、ショスタコーヴィチは交響曲第12番「1917年」以外にも、十月革命をテーマにした曲をいくつか作曲しているんだよね。交響曲第2番とか、交響詩「10月」とか。
そんなのもあるんですね! ショスタコーヴィチって気難しいイメージだったんですが、ここ最近ずっと聴いていたので、だんだんと仲良くなってきた感じがします! それ以外にも何かオススメな曲ありますか?
じゃあ有名曲だけじゃなくて、まんべんなく勉強してみる? 例えば、交響曲全15曲を全部覚えてみるとか。
涼しい顔して一気にハードル上げるなぁ…… でもそんな都合よく交響曲全集なんてあるわけないじゃないですか。あったら聴くんだけどなー、いやー残念です。(棒)
あるよ。
あっ、新幹線の時間を思い出したので帰ります。また用事があったら東京来ますね。
あっこら、逃げるな。
東京都交響楽団 第891回定期演奏会A
2019年11月16日(土) 14:00開演
東京芸術劇場 大ホール
指揮:エリアフ・インバル (Eliahu Inbal)
ヴァイオリン:ヨゼフ・シュパチェク (Josef Špaček)
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
ショスタコーヴィチ:交響曲第12番「1917年」