この記事の内容は、うさぎの主観がメインとなります。そのため、一般的な解釈や作曲者の意図とは必ずしも合致しません。ご理解いただける方のみお読みください。
導入
というわけでサントリーホールに来ました!
今日は都響(東京都交響楽団)の定期公演のひとつ、プロムナードコンサートに来たんだよね。
プロムナードコンサート
都響の定期公演のひとつ。「休日の午後、おなじみの名曲や親しみやすい音楽とともにお過ごしいただく、いわば"名曲の散歩道"」と謳っているが、比較的マイナーな曲が取り上げられることも多く、いわゆる「通好み」な一面も併せ持っているプログラム。初心者からベテランまで幅広く楽しめるのでオススメ。
何より、今日はフィンランド出身の期待の新星、クラウス・マケラが指揮をするんだよね。まだ20代前半の若手だし、どんな演奏を見せてくれるか楽しみだよね。
クラウス・マケラ
フィンランド出身の指揮者で、チェロ奏者でもある。1996年生まれの20代前半にも関わらず、既にヘルシンキフィルハーモニー管弦楽団(フィンランド)を始めとした各地のオーケストラとの共演を重ねており、今世界で最も注目されている新人と言っても過言ではない。
プログラムも「お国もの」であるシベリウスが中心ですからね! シベリウスが大好きなわたしも、今日はとても楽しみです!
感想
というわけで感想大会です。
1曲目
ジャン・シベリウス:
「レンミンカイネン組曲」より第4曲「レンミンカイネンの帰郷」
まず1曲目はシベリウスの「レンミンカイネン組曲」の第4曲「レンミンカイネンの帰郷」。第2曲「トゥオネラの白鳥」ほど有名ではないけれど、単体で演奏されることの多い曲だね。
ちょうど前日にヤルヴィ先生(パーヴォ・ヤルヴィ)とN響(NHK交響楽団)の「レンミンカイネン組曲」全曲の演奏を聴いているので、それの印象も少し残っているんですが……
全曲だと最後の曲である「レンミンカイネンの帰郷」を、今日は最初に聴くということで、また違った印象ですね。単体だとさながら純粋音楽の様相ですが、憧憬を思い浮かべるとしっかりとイメージが見えるようです。
最初の方だけ微妙に息が合ってなかったような気もしたけど、あとはしっかり息を合わせて一気に突き進んだね。さすが手慣れたシベリウスの曲、ということもあるだろうけど。
あと、NHKホールの3階席とサントリーホールのS席ではさすがに音の響きが全然違いますね。「すっきり」と「どっしり」って感じの違いがあります。
2曲目
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:
ピアノ協奏曲第4番
続いて、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番。交響曲第3番「英雄」と交響曲第5番「運命」の間に作られた曲、って言った方がイメージが掴みやすいかな?
わたしにはイメージの掴みづらい曲だったので、感想は省略させていただきますね。
おい。
ちなみに、ソリストアンコールはブラームスの「6つの小品 op.118-2 間奏曲」でした。
よくあるアンコールみたいにさらっと弾く曲じゃなくて、ゆっくりとしっとりと、ひとつの物語を作るような、まるでピアノリサイタルの中にいるような感覚を覚えるような長い曲でしたね。
ベートーヴェンじゃないのはなんとなく分かったけれど、まるでショパンとかの歌曲かと思うような印象だったね。
3曲目
ジャン・シベリウス:
交響曲第1番
そして今日の本命、シベリウスの交響曲第1番です。今日も、わたしが感じた印象をそのまま書きますね。
まず第1楽章、いきなり荒々しいまでの吹雪を浴びるような演奏でした。いつも交響曲第1番を聴いた時に見えるような針葉樹林なんてものじゃない、荒々しい吹雪…… そう、これがフィンランドの冬なんですよね。
そして第2楽章、静かなフィンランドの夜の情景と、その背後にあるロシア帝国の重々しい圧政への不安のようなものを感じました。この時代はまだ、フィンランドはロシア帝国の強い影響下にあった頃です。
第3楽章は、静かに反骨の狼煙(のろし)が上がるようなシーンが見えました。来るべき、ロシアから独立を勝ち取るための戦いに備える市民のイメージです。
ロシアを意識しすぎていたからか、途中で一瞬だけ、ロシア民謡のような音色が聞こえたような気がしました。
なかなか緊迫感溢れる第3楽章だったよね。
そして第4楽章は、いざロシア帝国との戦いに赴くぞ、という覚悟が見えるようなターンでした。そして、出撃直前に後方を振り向くと、美しい祖国の姿が見えます。遠くの夜空には、かすかにオーロラの光が見えます。
まるで、太平洋戦争末期に九州から沖縄へ向かう神風特別攻撃隊が、鹿児島の開聞岳を見て「人生最後に眺める本土」を心に刻み込むような、「もうこれで祖国を見るのは最後かもしれないから心に刻み付けておこう」、そんな風景が見えて涙が止まりませんでした……
お前は一体何を言っているんだ、と言いたくなるけれど、これに関してはちょっと気持ちが分かるような気がする……
そしていざ戦いが始まり、戦って、倒され、ふらふらと逃げ回り、ついには力尽きて大地に倒れ込んでしまいます…… しかし、倒れ込んだ先には、懐かしい祖国の自然が広がっていました。
「もうすぐ死ぬんだな」と分かっている中で、それでも「もう二度と見ることはない」と思っていた祖国を、最期にもう一度見ることができた……
いつのまにか、雪が溶けて春になり、子供たちが遊んでいるような声も聞こえる…… 「戦い」に勝ったのだろうか、この国は……
いや、「戦い」の行方は分からないけれど、ひとつだけ、はっきりと分かることはある…… 「やはり、この国は美しい」。そう実感しながら、ふたつのピチカートとともに息絶え、終演。
というわけで、作曲当時はまだ始まっていなかったフィンランドの独立を勝ち取るための戦いをイメージしたような、血なまぐさい風景が見えるような演奏でした。人によってはトラウマになりますよ、これ。
フィンランドの独立
史実では、フィンランドはロシア革命に乗じて独立を宣言し、独立に当たってロシアとは直接的な戦火は交えていない。とはいえ、独立宣言後に1年ほど内戦状態になり、そこで多くの犠牲者が出てしまった。
いやぁ、圧巻だったよね。ベルの表現したとおり、生々しい情景が見えるようだったよ。何よりも恐ろしいのは、今日この曲を指揮していたのは20代前半の青年だということかな。
もちろん、フィンランド出身の指揮者がシベリウスの曲を上手く指揮することは「必然的」でもあるから、それ以外のジャンルの曲を指揮した時にどんな感じになるのか、というのは気になるところだよね。
というわけで終演しましたが、今日は本当にすごい演奏でしたね。都響はまた新しい逸材を発掘してしまったのか……
発掘というよりは、見えてる宝石を集めてきたような印象だったけれど……
あー、確かにそっちかもしれませんね。さっきインターネットを見たら「サロネン先生が都響にクラウス・マケラ氏を強く推薦した」みたいなウワサ話を聞きましたし。あくまでウワサなので信憑性は薄いですが。
サロネン先生
フィンランド出身の指揮者、エサ=ペッカ・サロネンのこと。ロサンゼルスフィルハーモニー管弦楽団(アメリカ)の指揮者を務めたほか、2008年からはフィルハーモニア管弦楽団(イギリス)の首席指揮者を務めるなど、世界中を股にかけて活躍する指揮者。2018年の6月に60歳になる。
いやぁ、さっきも言ったけれど、末恐ろしい若者だよ、クラウス・マケラは。これからの成長が実に楽しみだよね。是非ともまた都響と共演してもらいたいね。なんならN響でもいいけどさ。
サロネン先生やロウヴァリ君(サントゥ=マティアス・ロウヴァリ)と比べたら、指揮っぷりの格好良さはまだそこまででもないかもしれませんが、仕上がった演奏は豪快そのものですよね。わたし的にも、今後が実に楽しみです!
東京都交響楽団 プロムナードコンサート No.377
2018年05月13日(日) 14:00開演
サントリーホール 大ホール
指揮:クラウス・マケラ (Klaus Mäkelä)
ピアノ:ルーカス・ヴォンドラチェク (Lukáš Vondráček)
シベリウス:「レンミンカイネン組曲」より第4曲「レンミンカイネンの帰郷」
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番
シベリウス:交響曲第1番